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短編小説の投稿 ~ (仮)明るく清潔感のある場所     

今回は短編小説をアップしてみます。

(この小説はアーネストヘミングウェイの短編小説「A Clean, Well-lighted Place(短編集:Winner Take Nothingに編集)」に影響を受け、大学生の頃に書いたものです。今回ブログにアップするにあたり加筆修正を加えました。文章の拙さは主人公の若さを象徴していると思っていただければ抵抗なく読めるかと思います)

  

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(仮)明るく清潔感のある場所

 

Part I

 その街には夜遅く船に乗って着いた。中央駅までの交通手段もないのでタクシーで向かうことにした。駅についてみると次の列車の時間まではまだしばらくあった。僕は列車が出るまでの時間をつぶす場所を探した。思いついたのは待合室だった。あそこならただで時間をつぶせるし夜風にあたって寒い思いをすることもない。駅の案内図で待合室の場所を確認すると、荷物を持って向かった。
 真夜中の待合室だというのにたくさんの人がいた。外国からの旅行者、学生、その少年に話しかけている酔っているような中年の人。つばを吐く人、ベンチの上で大の字で寝ている人。待合室に入るとそういった人々の視線をまともに感じた。タバコの煙が立ち込める部屋でたくさんの目が恨めしそうに、あるいはぼんやりと僕の方を見ていた。僕はしばらくその場に立ちすくみ、人々で一杯の部屋の中を見渡した。「座れる場所もないな」そう思うと急いでガラス戸を開けて出ていった。
 駅前の花時計の横を通り過ぎるとスクランブル交差点の向こうに見慣れた赤いネオン看板が輝いていた。夜の暗さのなかでアルファベットのイルミネーションが煌々と光を放っていた。何度も見慣れた場所だというのに初めてこのイルミネーションがあることに気づいた。その赤い看板のビルの隣にドーナツ屋があった。ドーナツ屋の明かりは店内の壁に反射され白い光を周りに降り注いでいた。僕は車の通りの少ない交差点を信号が青になるのを待って渡った。店の中は明るく清潔な感じだった。僕は荷物を置き、ミートパイとドーナツとジンジャエールを注文した。ミートパイを電子レンジで温めるのを待って、それらを持って外が見える席に着いた。そこからは通りの向こうにある駅の様子がよく見て取れた。僕はミートパイにかぶりついた。冷めてパサパサしていた。生地のしっかりしたパイを期待していたので予想外だった。ミートパイを食べ終わって時計を見ると12:05となっていた。そんなに時間は経っていない。ドーナツをゆっくり食べだした。店内にいた女の子二人が出ていき、客は向こうの隅にいる初老の人と僕だけになった。あの人も列車を待っているのだろうか鞄が大きい。僕はヘミングウェイのWinner Take Nothingを取り出して読み始めた。この本は一年以上も前に買ったものだが、まだ読み終えていなかった。他に興味をそそられる本を見つけるとそちらを先に読んだりしていたからだ。また思い出すと本棚から探し出して続きを読む。そういったことを何度か繰り返していた。何度も読み返したところもあれば、まだ読んでいないところもある。一度読んだだけであらすじも登場人物も忘れてしまったものもある。短編集だから他のものを先に読んでしまうのだろうか。それとも原文だからだろうか。いずれにしろ、読み始めはしたものの、未だに一冊を通して読み終えていなかった。
 しばらくすると、会社帰りらしき人がドーナツを買っていった。こんなに夜遅くまで仕事をしてるのは大変だ。そう言えば、ここの二人の店員もまだ働いている。二人とも若く学生のバイトのように見える。朝までここでいるのだろうか。一人暮らしであれば、こういった明るい場所が何がしら心地よいのかもしれない。

 本を少し読んでは目をあげ外の景色を見、ドーナツを食べる。この繰り返しで時間を使った。何回か繰り返した後、ドーナツは少しだけ残したままにしておいた。ジンジャエールもそうした。外を見ると信号機の青い光が夜の闇の中に溶けだしていた。だがそれも少しの間だった。信号が変わった。
 ひとりの男が入ってきた。中年で腹が出ていて、少し酔っている男が。彼はカウンターの一番奥まで入っていき、「ドーナツをくれ」と叫んだ。
 静かな気分を壊されて残念だった。きれいに磨かれた大きな窓ガラスを通して見る外の世界のようにここも静かだったのに。信号が変わり車が止まり、また動き出す。目に入る光は交差点の向こうの駅の明かりと信号の色。人の気配はない。ただ、ときおり通り過ぎるタクシーに人の影を見るだけっだった。
 店員は静かに答えた。「どのドーナツにしますか。」
 「ドーナツをくれ。ドーナツ。」
 「これですか。」
 「ああ、それでいい。」
 ドーナツ屋にはいろいろなドーナツがある。それぞれ一つ一つに発音しにくい名前がついている。そこに意味を見出していれば名前を並べて注文することもできるだろうが、そうでなければウインドウ越しに並んでいるものを指さして注文するしかない。
 「久しぶりだな。」酔った男は言った。
 「ええ。」店員が答えた。
 「お前ら、きちんと学校へ行っているのか。」
 「ええ、一応行っています。」見た目年上の店員が答えた。
 「二人とも同じ学校か。どこの大学だった。」
 「〇〇大学です。」年上の店員が地元の大学の名前を答えた。
 「お前もそうか。」と若い方の店員に聞いた。
 「いえ、違います。」
 「それじゃどこだ。」
 「彼は専門学校生なんです。」年上の店員がお茶を濁すように言った。
 「そうか。」男は聞き流した。
 「大学で何を専攻しているんだ。経済だったか。」大学生の店員に聞いた。
 「いえ、法学です。」店員はにやけながら答えた。
 「ああ、そうだった。」男は納得したように言った。
 「お前、佐藤だったな。」
 「いえ、違いますよ。」店員は笑いながら答えた。
 「お前が佐藤か。」若い方の店員に向かって聞いた。
 「いえ、違います。」
 「あれ、あいつはどうした。今日は休みか。・・・そうだ、お前、小林だったな。そうだろ、小林。」と大学生の店員に向かって言った。
 「いえ、違います。」
 この中年の男は何者だろう。酔っていることは間違いなさそうだが。夜の寂しさを紛らわせるためにやって来たのだろうか。酔っていなければ教師として通じそうな男なのだが。最初に入って来たときは、バイトの学生の恩師のような様子だったのだが。
 窓の外では信号の色が変わり、車が止まった。
 僕は時計を見た。列車が出るまでにはもう少し時間があった。ドーナツをかじり、ジンジャエールを少しすすった。少し早めに行った方がいいかもしれない。
 店の中ではロック音楽が流れていた。ディスクジョッキーが外国人だったからFENか何かだったのかもしれない。今では店全体が夜のしじまから浮いているように感じた。それでもロック音楽は店の雰囲気に合っていた。ブルースでも流していたらたまらなかっただろう。夜のとばりをより重くするだけだ。それに、隣の赤い看板に合わないだろう。
 店に入ってきた中年の男はそこだけ店の雰囲気を変えていた。彼はブルースの静けさでもロックの軽さでもない音楽が似合いそうだった。僕は時計を見た。そろそろホームに列車が入ってくる頃だろう。ホームに入って列車に乗っていたほうが静かかもしれない。男は、まだ大きな声で話をしている。窓の外を見た。車は通っていない。人の姿も見当たらない。改札の明かりは信号の向こう、遠くにある。
 「いいか、お前ら。」中年の男は店員にしきりに話しかけている。店員は聞いていないようだった。
 「いいか、若いということはいいことだぞ。」彼は店員の注意を引こうと相変わらず大きな声で話している。
 「いいか。若いことはいいことだぞ。俺だってもっと若ければいろいろやれたはずだ。そうだろ。」強引に返事を引き出そうとしていた。
 「え・・・、ええ。」大学生の店員は笑いながら答えた。
 「くどいな。」と思った。だがすぐに思い直した。人にはいろいろある。分かっていないことに自分の評価を出したくない。それに他人のことにはできるだけ干渉したくない。この人たちにこれ以上付き合うこともないだろう。残りのドーナツを口に放り込み、ジンジャエールを飲み干した。店員の言葉を背中で聞いて店を出た。
 店の奥の初老の人はまだ静かに座っていた。

 駅に入っていくと会社員らしき人が僕の前に改札に入っていった。いったいいつまで働かされるのだろう。僕の前を歩いている会社員と彼を照らすホームの薄暗い明かりはロックもジャズも似合いそうになかった。
 ホームに止まっている列車に乗り込み、窓際の席に座った。まるで行く先の分からない列車に乗っているような気持ちで外を見た。改札の明かりの下をドーナツ屋にいた老人が入ってきた。

 

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(当初の構想では、Part IIで港から駅、ドーナツ屋、列車までの同じ時間の経過を老人の視点から見た物語として書き、Part IIIで若者と老人が列車の中で同じ時間を過ごす物語を書くということになっていましたが、(例によって)Part IIの途中までしか筆が進んでいないのと、短編小説としてある意味Part Iで完結しているともとれますので今回はPart Iのみでアップさせていただきました。)

 

いかかでしたか。小説は映像や音声を読者の方に「おまかせ」するのでMMDで作るドラマのように映像化したものに比べ読者の方が具体的な場面を自由に想像することができると思います。また、詳細にこだわらなくていいので作りやすいところもあります。映像や音声を付けたものは直観的に入ってきやすく、それだけ影響も受けやすいと思います。作る側としてはやはりそのことが気になります。そういったことを考えるとほのぼのとした動画が見る側、作る側にとっても一番いいような気がします。

 

MMDドラマなどの作品を作るとき、概ねのテーマと方向性は見せますが、全てを語ってしまわないようしています。それは小説のつくり方に似ているのかもしれません。作者として伝えたいことはあるのですが、見ている方が自由に感じ、考えていただく部分を残しておきたいのです。チラ見させてあとは見ている方におまかせする。そんなスタイルを楽しんでいます。

 

ここまで読んでいただきありがとうございました。